読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

クラゲに刺されたら…?

お盆を過ぎたらクラゲが増えるから海に入ったらダメ!とよく言われますが、それでも夏休みの最後に海に行きたくなってしまったのか、クラゲに刺されたといって受診される人もときどき目にします。

(もちろん、お盆より前でもクラゲはいますので、夏休み期間中は全期間を通じてそれなりにクラゲ刺傷の受診があります。)

 

さて、クラゲに刺されたという主訴で受診があった場合はどう対応すれば良いのでしょうか?
本当はT&Aマイナーエマージェンシーコースでも扱いたいのですが、残念ながら季節ものだからということでコース内では扱っていません。

ですので、ここで簡単にまとめてみようと思います。

 

f:id:TandA-minoremergency:20150828210003j:plain

 

さっそくですが、クラゲは初期治療がかなり大切です。

 それを反映してか、自分が小さい頃は、海に行くときにはお酢を持って行きなさいと言われていました。さて、“酢”って効くんでしょうか?

他にも、クラゲに刺されたらもう一回海に入ってよく洗えとも言われていました。別の人からは、すぐに温かいシャワーを浴びなさいとも言われたことがあります。これはどっちが正しかったのでしょうか?

 

答えはケースバイケースです。笑

 

なんとも意地悪な回答ですが、こんな回答となるのもひとくくりにクラゲといっても、多くの種類があり、種類によって対応が異なるからなのです。(あるクラゲには酢はいいけれども別のあるクラゲには酢はかえって良くないということがあります。<後述>)

 

多くの種類があるものの、クラゲには分布する地域出現する時期が概ね決まっています。(これらについては、クラゲガイドブック最新クラゲ図鑑が参考になります。他にもインターネットのサイトなどにも多くの情報があります。)

参考までにWikipediaからの情報を抜粋してまとめるとこんな感じです。

f:id:TandA-minoremergency:20150828212415j:plain

カツオノエボシ、アンドンクラゲ、アカクラゲハブクラゲ(沖縄)などが日本で見られる有名な毒クラゲでしょうか。クラゲが全部毒があるかというとむしろそんなことはなく、ミズクラゲなど毒を持たないクラゲも多いようです。

 

ところで、“クラゲに刺される“とミミズ腫れのようになって痛いですよね。なぜこうなるのでしょうか?

それは、毒クラゲの触手にある「刺胞」という構造物から毒針が、触手が皮膚に付着したタイミングで射出され、体内に入ることで、局所症状としていわゆるミミズ腫れのような皮疹が出たり、痛みが出たりするのです。重症例では、全身症状が出ることもあり、カツオノエボシハブクラゲでは心肺停止例や死亡例まで報告されています。

 

この刺胞をなんと酢酸によって不活化させることができる場合があるということも知られています。(これが例のお酢を持って行かされていた理由なんですね。)

ただし、これはアンドンクラゲやハブクラゲの仲間に限ったことで、それ以外のクラゲの場合は、むしろ刺激となり、残存した刺胞の射出を促すことになってしまうようです。

温めると良いと言われているのも同じで、アンドンクラゲやハブクラゲの仲間に限って言えば、疼痛の緩和ができたという報告があるものの、それ以外のクラゲの場合は検証されていないか、むしろ刺激となり皮膚表面に残存した刺胞の射出を促してしまう可能性もあります。
(お湯を用いる理由の一つには毒素蛋白の失活を狙うという意図があるようですが、既に皮膚内に取り込まれた毒素には皮膚表面にお湯をかけても効果はなさそうと感じます。)

 

ここまでをまとめると…

f:id:TandA-minoremergency:20150828214712j:plain

 

つまり、どんなクラゲに刺されたか特定できる場合は、酢をかけたり、お湯に浸けたりするのが効果を示すかもしれませんが、普通はどんなクラゲに刺されたかはわからないことが多いと思われます。また、カツオノエボシは触手が10m程度もあるので、目の前にクラゲらしきものがいても必ずしもそれに刺されたとは言い切れません。(それに、もしかするとクラゲではなく、毒サンゴや毒魚かもしれません。)
以上のことから、(本州で勤務している)筆者は、クラゲ刺傷には、お酢やお湯に浸けるという治療は行わない場合が多いです。

一方、夏の沖縄などではハブクラゲがかなり多く存在するようです。しかもハブクラゲは重症化する例も知られていますので、このようなシチュエーションではすぐにお酢をかけるのはアリかもしれません。

 

それでは、クラゲ刺傷の初期診療をまとめます。

まずは、何はともあれABCDの確認です。全身症状が出ていないことを確認した上で、局所の治療に集中しましょう。

次に、刺胞の除去を行います。
皮膚に諸悪の根源である触手のかけらが残存しているのが見えることもあります。この場合は速やかに取り除きましょう。肉眼的に見えるからと言って手でつかんでしまうとこちらが二次災害に遭うので必ずセッシなどでつかんで除去するようにしましょう。


そしてこの後、前述のようにシチュエーションによっては、酢酸・食酢をかけましょう。(この判断をするには自分の勤務地周辺の海のクラゲの分布をある程度知っている必要がありますね。わからなければこのStepはスキップしましょう。)

続いて、冷水で洗浄します。肉眼的には見えなくともまだ刺胞が残存しているかもしれません。
(お湯でなくて冷水である理由は前述の通りです。海外の文献ではお湯を薦めている場合もありますが、それは分布するクラゲの違いによる可能性があります。)
この冷水というのは、できれば海水もしくはそれに近い組成のもので洗いましょう。
極力残存した刺胞が射出されないようにしたいので、化学的刺激を避けるという意味で海の環境と同じ液体で洗浄するようにしたいです。(水道水は避ける
また、機械的刺激を避けるという意味でゴシゴシ擦るのではなく愛護的に洗います。


最後に、痛み止めも処方しましょう。クラゲに刺された後は痛みが一番の問題と感じる場合も多いですので。

f:id:TandA-minoremergency:20150828215704j:plain

あと、忘れてはならないのは、クラゲ刺傷も外傷ということです。

感染徴候がないか経過観察を行っていくことや、破傷風の予防についても考慮する必要があります。

 

 

以上がクラゲ刺傷についてのまとめです。

救急全般に言えることかもしれませんが、クラゲ刺傷の場合は特に、初期治療は病院前から始まっている、と言えます。

とすると、病院の外来だけでなく、家庭でもお役に立てる知識なのかもしれませんね。

少しでも皆様のお役に立てれば幸いです。

 

主な参考文献は、

Mar Drugs. 2013; 11: 523-50.

Am Fam Physician. 2005; 71: 2313-7.

前者はクラゲ刺傷について、後者はサーファーの遭遇するトラブルについてまとまっている総説です。いずれもリンク先からFREEで読めます。

JIM. 2004; 14: 583-7.

沖縄中部病院の本村先生がクラゲ刺傷についてわかりやすくまとめてくださっている総説です。